「お客様は神様です。」
もはや風化してしまった言葉ですが、本当に“神様”なのであれば、たとえこちらの不手際でトラブルがあっても、大海のような広い心で許してくれよ…と、多くの方が思ったことでしょう。
実際、ビジネスにおけるお客様とは、対価によって成り立つ「対等な存在」のはずです。 しかし残念なことに、世間には価値観のズレた人達もいます。いわゆる「ブラック顧客」です。
彼らは勘違いをしやすく、理不尽な要求に対しても何とも思いません。考えるより先に手が出る『北斗の拳』のラオウのようなタイプと言えるでしょう。
そんなブラック顧客と付き合ってしまうと、会社側には必ずと言っていいほど「副作用」が出ます。
まず、時間の境界線が破壊されます。
彼らは会社の営業時間外、それこそ土日であっても平気で連絡をしてきます。もちろん、お詫びの言葉などありません。「即日対応」を求めてくることも日常茶飯事です。 多くの場合、その急な依頼の背景にあるのは「担当者のスケジュールミス」や「上長への提出期限に間に合わない」といった、顧客側の身勝手な事情です。
いかなる事情があろうとも、顧客がこちらの社員に残業や休日出勤を命じる権利はありません。 「間違いを犯したのはそちら(プロ)なのだから、責任をとって土日も働け」 もしもミスがあったとしても、そうやってリカバリーを強要する関係性を、健全なビジネスと呼べるでしょうか。こうなると、現場はどこからどこまでが本音なのか分からなくなり、プロジェクトを成功させようという気概さえ失ってしまいます。
さらにたちが悪いのが、「自分たちは素人、あなた達はプロ」という言葉の暴力です。
一見もっともらしいこの言葉は、後出しじゃんけんに近い必殺技として使われます。事前の見積もり段階で説明を尽くしていても、「素人だから分からない。プロであるあなた達に任せているのだから、もっと良い提案をすべきだ」と、責任の所在を一方的に押し付け、厳しく追及してくるのです。
ここで、ある本質的な逸話をご紹介します。
かつて吉田茂元総理が、ある一流ホテルを訪れたときの話です。
吉田総理はホテルのトイレで手を洗ったあと、なんと洗面台のまわりにはねた水を自分のハンカチで拭こうとされました。それを目にしたホテルの従業員は、慌てて清掃担当者を呼ぼうとしました。 すると、吉田総理はこのように仰ったといいます。
「洗面台の水はねを拭くために、いちいち担当者を呼んでいては仕事にならないでしょう。一流ホテルが一流である証は、従業員の手によって、トイレがいつもきれいであることではありませんよ。 手を洗ったあとに、洗面台を自分で拭くのが当たり前だと思うお客様が常連であることが、本当の一流ホテルの証なのではないでしょうか」
(引用・参考:吉田茂はなぜ、一流ホテルの洗面台を自分で拭いたのか?)
このエピソードは、ブラック顧客に悩む私たちに重要な示唆を与えてくれます。 そもそもの「目線」が違うのです。
ブラック顧客が存在してしまうのは、サービスを受ける側のモラルの問題でもありますが、それ以上に「サービスを与える側」の問題でもあります。 ブラック顧客を許容してしまう体質そのものが、結果として自社の社員を疲弊させ、組織そのものをブラック企業の体質に近づけてしまっている。「類は友を呼ぶ」論です。
だからこそ、組織全体が一致団結して、付き合う相手を見極め、時には毅然と対応する必要があります。
相手ばかりを責めず、自分の足元を見つめ直すこと。 頭では分かっていても、実行するのは難しいかもしれません。しかし、あなたの会社が相当なブラック企業でない限り、ブラックな顧客が自然発生的に続々と生まれてくることはありません。 プロジェクトの進行中に回避できることは多く、見直すべき点も多いはずです。ブラック顧客を呼び寄せているのは、もしかすると「断れない自分たち」なのかもしれません。
あなたの嫌いなブラック企業は、意外に身近なところにあるのかもしれない。 そんな「灯台下暗し」の意識を持つことが、組織を守る第一歩ではないかと考えています。
ここ最近、朝礼や会議時にこの辺りのネタを共有しているので、今回あえて記事にしてみました。